
お子様のむし歯は「まず相談するか・急ぐか」を分けて考えましょう
お子様のむし歯の治療を後回しにすると、乳歯の神経まで炎症が進み、食べることやねむること、のちに生える永久歯へ影響が出ることがあります。 痛がっていなくても進んでいることがあるため、まずは歯科医院でいまの状態をみてもらうことが大切です。この記事では、乳歯のむし歯を待つと起こりうる変化や、片側で噛む・腫れ・熱が出るといった早めに受診したいサインの目安、受診までの家での過ごし方をまとめます。歯科医院を嫌がるお子様でも、急ぐ状態でなければ慣れるところから始められる進め方をお伝えしますので、予約や相談を決めるときの材料にしてください。
この記事の要点まとめ
- 乳歯のむし歯は痛みがなくても進み、神経や永久歯にまで影響することがあるため、健診で言われたら相談する。
- 片側で噛む、夜の痛み、腫れや熱は、早めに受診したいサイン。顔が腫れたり熱が出たりしたときは、その日のうちの受診を考える。
- 受診した日にすぐ治療するとは限らず、急ぐかどうかに合わせて進め方を相談する。予約のときは健診の結果や怖がった経験を伝える。
子供のむし歯治療を後回しにするリスクは「いつ相談するか」を決める材料に

痛がっていなくても、むし歯を指摘されたら相談を
「乳歯はいずれ抜けるから」「本人が痛がっていないなら急がなくてよい」と考え、受診を先延ばしにしてしまうことは珍しくありません。しかし、お口の中の病気は自覚症状が出にくいという特徴があり、痛みがないことはむし歯が進んでいない証明にはなりません。
自覚症状が乏しいむし歯や歯周病は、悪化する前に対処するほうが将来歯を残しやすく、患者さまの負担も抑えられます。 むし歯になって歯を削ることを繰り返していると、段々歯がなくなってしまいます。だからこそ、何度も治療しないで済む健康な歯を育てることが大切です。
ごく初期のむし歯であれば、歯を削らずにフッ化物(フッ素)の活用や日々の歯磨きで再石灰化(溶け出した歯の成分が再び戻ること)を促し、経過を見る対応が選ばれることもあります1。保育園や幼稚園の歯科健診でむし歯を指摘されたときは、すぐに削る治療をするかどうかに関わらず、まずは現状を知るための相談のきっかけにしてみてください。
乳歯のむし歯を待つと起こりうる変化:神経の炎症・食事・永久歯への影響
乳歯は永久歯に比べて表面のエナメル質やその内側の象牙質が薄いため、むし歯が始まると歯の神経(歯髄)まで近づきやすい構造をしています。治療を待っている間に神経まで炎症が及ぶと、ズキズキとした強い痛みや歯ぐきの腫れにつながることがあります。
また、治療していないむし歯は、痛みのもとになるだけでなく、食べるなどのお口の働きや栄養、気持ちの面にも悪い影響を与えることがあります。さらに、乳歯のむし歯で穴があいたり、生えかわりの時期より早く乳歯を失ったりすると、永久歯が生えるためのすき間が保てず、歯並びが乱れることがあります2。
進行の深さによって、選ばれる処置は次のように変わります。
- 浅い〜中程度のむし歯:むし歯になったところを削り、歯科用のプラスチックなどでふさぐ
- 神経まで届いたむし歯:神経の処置(根の中の消毒)をしてから、かぶせ物などで形をおぎなう
- 根のまわりまで大きく進んだむし歯:永久歯への影響を考えて歯を抜き、必要に応じてすき間を保つ管理をする
進み具合が大きくなるほど、1回の処置時間や通院回数が増えやすくなります。なお、「抜けた乳歯の中が黒い」と驚かれることがありますが、これはむし歯の進行による変色のほか、飲食物による着色や、歯が抜ける前に神経が吸収される過程の色調変化である場合も考えられます。気になる場合は、残っている他の歯にむし歯が隠れていないか歯科医院で確認しておくとよいでしょう。
片側で噛む・夜も続く痛み・顔の腫れや発熱:受診を急ぎたい症状の目安
お子様は痛みをうまく言葉にできないことがあり、行動の変化としてサインが現れます。現在の様子からどの程度受診を急ぐべきか、段階別の目安を整理しました。
| お子様の様子・症状 | 受診を急ぐ目安と行動 |
|---|---|
| 健診で指摘されたが、痛みや食べ方の変化はない | 早めの日程で相談の予約を取る |
| 片側だけで噛む、冷たい物や甘い物でしみる、食べるのが遅くなった | できるだけ早めに歯科医院へ連絡し受診する |
| 痛みが持続する、夜間に痛みで目が覚める、歯ぐきがぷっくり腫れている | 早急に歯科医院へ連絡し、症状を伝えて受診する |
| 頬や顎など顔まで腫れている、発熱を伴う、水分が摂れずぐったりしている | 当日中の受診、夜間・休日は地域の救急相談窓口や休日夜間診療所へ相談する |
夕食のときに片側だけを使って噛んでいる、硬いものを嫌がるといった変化は、噛んだときの違和感や痛みを無意識に避けているサインかもしれません。顔全体の腫れや発熱が見られる場合は、炎症が歯ぐきの外へ広がっている可能性があるため、翌週まで待たずに当日中の対応を検討してください。
ポイント
痛みを言葉にしなくても「片側だけで噛む」などの変化は早めに相談するサインであり、顔の腫れや発熱があるときは当日中の受診が必要です。
受診までの家庭での過ごし方と、避けたい行動
予約日までに少し時間が空く場合や、夜間に違和感が出たときは、家庭での過ごし方で刺激を和らげます。食事は痛む側や気になる側を避け、うどんや豆腐などあまり噛まずに飲み込める軟らかく温度差の少ないものを用意してください。甘い飲み物や時間を決めない間食は控え、食後はやさしい力で歯磨きをして食べかすを残さないようにします。痛みが強く眠れないときは、お子様の年齢に合った市販の解熱鎮痛薬を用法・用量を守って使うことも一つの方法です。
一方で、次のような行動は症状を悪化させるおそれがあるため避けてください。
- はれている頬や歯ぐきを温める、長くお風呂に入る、激しく体を動かす
- 気になる歯や歯ぐきを、指やつまようじなどで強くさわる・つつく
- 大人用の痛み止めを、自分の判断で分けて飲ませる
- いっときだけ痛みが引いたからといって、予約した受診をやめてしまう
神経の炎症が進むと、途中で一時的に痛みが落ち着く時期がありますが、むし歯が治ったわけではありません。痛みが和らいだタイミングこそ、落ち着いて診察を受けられる機会と捉えて受診につなげましょう。
受診してすぐ治療とは限らない:お子様の様子と緊急性に合わせた進め方

歯医者を嫌がる子は、まず慣れるところから相談できます
以前の受診でお子様が泣いて口を閉じてしまった経験があると、「また嫌がって大変な思いをするのではないか」と予約をためらってしまう方は少なくありません。しかし、歯科医院を受診することと、その日のうちにすぐ歯を削る治療を始めることは別です。
お子様は一度でも歯科医院で嫌な思いをしてしまうと、場所や雰囲気そのものを怖がり、通いたがらなくなることがあります。そこで、まず歯科医院に慣れるところから始めます。 無理に診療台へ乗せて処置を始めるのではなく、歯科医師やスタッフとコミュニケーションを取り、使う器具に実際に触れてもらうなど、段階を踏んで環境に慣れてもらう時間を設けています。
こうした進め方は、麻酔時の痛み・歯科への怖さ・通院にかかる時間への配慮を診療につなげる「3ナイ治療」の考え方にもとづくものです。なお、慣れるための期間をどの程度設けられるかは、むし歯の深さや痛みの有無によって異なります。練習を重ねていく間もむし歯が進行しないよう、ご家庭での仕上げ磨きの工夫や食生活の見直しを並行して行うことが大切です。
緊急性があるときは、保護者と相談して治療の進め方を考えます
お子様のペースを大切にしながら慣れる時間を設ける一方で、すべてのケースで練習を優先できるわけではありません。前章で挙げたような「夜も眠れないほどの強い痛みがある」「歯ぐきや顔が腫れている」といった緊急性を伴う場合は、炎症を抑えるために最初の段階で治療や応急処置を行うこともあります。
その際も、保護者の同意なく一方的に処置を進めることはありません。お口の中を診察して現在の状態を説明したうえで、その日のうちにどこまで処置を行うか、保護者の方と相談しながら進め方を決めていきます。
むし歯が深く根の処置や抜歯を考える場合や、乳歯を早めに抜いたあとに永久歯のスペースを保つ管理(保隙)が必要な場合もあります。どの方法を選ぶかは歯の状態によって変わるため、診察のうえで保護者の方と相談しながら決めていきます。まずは「今すぐ処置が必要な状態か、慣れる時間を作れる状態か」を見極めるために受診していただければと思います。
ポイント
受診したその日に必ず削るわけではなく、緊急性がなければ歯科医院に慣れる練習から始め、急ぐ症状があれば保護者の方と相談して対応を決めます。
治療が必要な場合の、麻酔時の刺激への配慮
いざ治療を行う段階になったとき、お子様が特に敏感になりやすいのが麻酔の注射です。処置中の痛みを和らげるための麻酔ですが、針を刺す瞬間のチクッとした刺激そのものが恐怖心につながることもあります。
麻酔時の刺激をできるだけ抑える配慮として、注射の前に歯ぐきの粘膜表面へ軟膏タイプの表面麻酔薬を塗布しています。あらかじめ表面の感覚を鈍らせておくことで、針が触れる際の刺激を和らげる工夫です。さらに、針が細いほど粘膜への負担が小さくなるとされるため、超極細の針を組み合わせて処置を行っています。感じ方には個人差があり、お子様の緊張が強いときには、その日の体調や様子を見ながら保護者の方と相談して進め方を調整します。
予約のときに伝えたい3つのこと:健診結果・怖がった経験・食べ方の変化
歯科医院へ予約や相談をする際は、次の3つを事前に伝えておくと、当日の対応がスムーズになります。
- 歯科健診の結果用紙:園や学校の健診でどの歯を指摘されたかが分かる書類
- 過去に怖がった経験:「以前、診療台で泣いて口を閉じてしまった」「機械の音が苦手」といった具体的な様子
- 最近気づいた変化:「数日前から片側だけで噛んでいる」「冷たいものを嫌がる」などの症状や期間
これらを予約時や問診時にお伝えいただくことで、初回は器具に触れる練習とお口の確認を中心にするか、痛みを和らげる処置を優先するかの見通しを立てやすくなります。
なお、子どものむし歯治療には健康保険が使えます。お住まいの市区町村で、子どもの医療費の助成を受けられる場合もあります(助成の条件や自分で払う額は、市区町村によってちがいます)。一般的な保険診療の目安として、初めての日の検査や応急的な処置は3割負担でおおむね3,000円〜5,000円程度、その後の通院は1回あたり1,000円〜2,000円台におさまることが多いです。
ただし、ここに書いた金額は一般的な相場で、当院の費用ではありません。当院の費用は診察のうえでご案内します。
むし歯治療の通院回数は、小さなむし歯であれば少ない回数で終わることもありますが、神経に近い深いむし歯や治療が必要な歯が複数ある場合は、複数回にわたって通院が必要になることがあります。仕事と送迎のスケジュール調整が気がかりな方も、初診時に通院しやすい曜日や時間帯をお伝えいただければ、無理のない通院計画をご一緒に考えます。名古屋市中区の栄駅・久屋大通駅周辺でお子様のむし歯や受診への不安をお抱えの方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. むし歯を放置すると、どのような影響がありますか?
A. 乳歯のむし歯をそのままにすると、歯の神経まで炎症が進んで強い痛みや歯ぐきの腫れを引き起こすことがあります。また、痛む側を避けて噛むことで食事のバランスや睡眠に影響が出たり、根の先の炎症がこれから生える永久歯の健康や歯並びへ影響したりする可能性があります。症状が軽いうちに相談しておくことで、処置の負担を抑えやすくなります。
Q2. 毎日3回歯磨きをしていても、お子様がむし歯になることはありますか?
A. 毎日歯磨きをしていても、奥歯の溝や歯と歯の間にはプラーク(歯垢)が残りやすく、むし歯になることがあります。特に乳歯は質が軟らかいうえ、甘い飲み物を飲む習慣や間食の回数が多いと、歯の表面から成分が溶け出す時間が長くなります。ご家庭での仕上げ磨きに加え、デンタルフロスの併用や歯科医院での定期的なチェック、フッ化物の活用などを組み合わせることが大切です1。
Q3. むし歯治療の通院間隔は、どのくらい空けるのがよいですか?
A. どのくらいの間をあけて通うかは、処置の内容によって変わります。小さなむし歯をふさぐ処置なら1〜2週間おきが多く、神経の処置や消毒をくり返すときは、薬の効き方や炎症のおさまり具合を見るため、1週間前後おきに続けて通っていただくことがあります。仮のふたをしたまま長くあけると、また細菌が入ることがあるため、予定が立てにくいときは前もって歯科医師にご相談ください。
参考文献
1. むし歯 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020. https://www.jda.or.jp/park/trouble/index02_03.html
2. 歯科医療の現場から お口の健康と全身の健康の関係|お口と全身の健康を学べるWebマガジン|日本歯科医師会. https://www.jda.or.jp/happysmile/vol30/shikai/
3. Worthington HV, Lewis SR, Glenny AM et al. Topical silver diamine fluoride (SDF) for preventing and managing dental caries in children and adults. The Cochrane database of systematic reviews. 2024. PMID: 39508296 / DOI: 10.1002/14651858.CD012718.pub2
4. 大阪大学歯学部附属病院 矯正科 https://hospital.dent.osaka-u.ac.jp/departments/orthodontics/
東京医科歯科大学歯学部摂食機能構築学専攻生 終了
日本歯科大学大学院生命歯学研究科歯科臨床系専攻(歯周病学)卒業 博士(歯学)
昭和大学歯学部兼任講師
錦デンタルクリニック 開業
日本歯周病学会
日本歯科保存学会
日本口腔インプラント学会認定専修医
日本レーザー歯学会専門医
